Licht en schaduw

日記や小説、詩を書いています。

45.帰還 

四銃士

 ミザールの街に戻ったアレンたちは急いで商人の家を訪ねた。家の中からリリーが出てきて、笑顔で出迎える。

「おかえりなさい。皆さんご無事でよかったです。どうぞ中へ」

 リリーに案内されアレンたちは家の中へと入っていく。すると商人の男が松葉杖をついて奥の部屋から姿を見せた。

「どうなさったのですか⁉」

 アレンが驚いて聞く。商人の男が照れながら答える。

「いやあ、山に入ったときに足をひねってしまって……お恥ずかしい」

 アレンが安堵の表情を浮かべたとき、背後から聞き覚えのある声がする。

「お! おかえり。全員無傷とかやるじゃねえか!」

 アレンが振り返ると、首元にタオルをかけた湯上りのクレイグが立っていた。アレンは涙をにじませてクレイグに抱きついて喜ぶ。

「クレイグ! よかった! よかった!」

 ティムもクレイグに抱きついて泣きながら喜んだ。ブラッドとケイはほっとした表情を浮かべ、リリーと商人の男も微笑まし気に見ている。

「そろそろ離れてくれ。笑われてんぞ、恥ずいだろ……」

「笑われたっていい。死んだかと思ったんだから!」

 ティムが涙目で言う。

「俺だって思ったよ」

 クレイグはそう言って、森で起きた一連のことを話した。

「うわあ。踏んだり蹴ったりとはこのことだね……」

 ティムが心配そうに言った。

「よく毒消しなんか持ってたな」

 ブラッドが言い、アレンが答える。

「アリオト砂漠の集落でお世話になったときに、お婆さんにもらったんだ」

「そうか。命拾いしたな。もう体は平気なのか?」

 ブラッドがクレイグに聞く。

「ああ、おまえの薬のおかげでな」

「そうか」

 それから、アレンたちは出発の準備をし、住民たちに礼を言って別れを済ました。ミザールの入り口でクレイグがケイに聞く。

「ところでおまえ、どこまでついて来るつもりだ?」

「そう言えばそうだね」

 ティムも続けて言った。

「そんなの決まってんじゃん。あんたらの村までだよ。あんたたちの村もみたいし、何よりアイリスに会ってみたくなってね」

 ケイが明るく返す。アレンは一瞬驚いたが嬉しそうに言う。

「嬉しいよ。アイリスもきっと喜ぶ。そうと決まれば早く帰ろう!」

 アレンはそう言って馬で駆け出した。ティムたちも後を追うように駆け出す。そうしてアレンたちは野宿などをしながら数週間かけてポラリス村へと帰るのだった。


 約一月ぶりにアレンたちはポラリス村に帰ってきた。アレンたちはほっとした表情を浮かべ、ケイはのどかな景色を眺めていた。アレンたちはまず診療所に行き、アイリスの眠る病室へと向かった。病室の扉を開けるとベッドのそばにシビルが座っていた。

「あら、おかえりなさい」

「シビルさん、どうしてここに?」

 アレンが聞く。

「そろそろ帰る頃だと思ってね」

 アレンたちは人魚姫の涙、女神の雫、金色の果実をシビルに手渡した。

「たしかに。じゃ、作ってくるわ」

 シビルはそう言って、診療所の奥へと向かい、薬を作り始める。


 そして小一時間ほどが経ち、シビルが小瓶を手に戻ってきた。

「はい、できたわよ」

 そう言ってシビルはアレンに小瓶を手渡した。アレンは皆の顔を見渡して、皆が見守る中、アイリスの口に薬をゆっくり流し込んだ。

「これでしばらくしたら目覚めるはずよ」

 シビルが言った。皆が安堵の表情を浮かべる。

「アイリスはこれでいいとして、アイリスが出会った森のじじいはどうする?」

 クレイグが眉をひそめて言った。それを聞いてシビルが思い出したように話し出す。

「ああ! それ言うの忘れてたわ」

 皆がシビルの方を見る。

「あれね、妖精だったのよ。アイリスに好感を抱いた妖精が仲良くなりたくて渡しちゃったみたいよ。人間には毒だと知らずにね」

 シビルがそう言うと、ブラッドが険しい表情でシビルを見て言う。

「それ、いつ知ったんだ?」

「あなたたちが旅立って二、三日後くらいかしら。薬を届けるついでに話そうって思ってたんだけど、いろいろあって忘れてたわ」

「いくらでも話す機会はあったのに、ベラベラとくだらない話ばっかりしやがって……わざとだろ」

 ブラッドが冷たく言う。

「やあね、そんなわけないでしょ。ほんの、おっちょこちょいちょいちょい」

 シビルが笑みを浮かべて言った。ブラッドが黙って冷たい視線を向けている。

「まあまあ、原因もわかったことだし、よかったよ。ね?」

 アレンがブラッドを見て言う。ブラッドは不満そうに目を逸らした。

「そうだよ。近くの森に不審者がいなくて本当によかった」

 ティムがほっとした様子で言った。

「あれ? ここは?」

 アイリスが目を覚ました。皆が一斉にアイリスを見て、そばへと近づく。

「アイリス? わかる?」

 アレンがそう言って、アイリスの目の前で軽く手を振る。アイリスはゆっくりと体を起こして皆の顔を見回す。アレンがアイリスに状況を説明する。アイリスは驚きながらも状況を把握した。

「みんなありがとう。ごめんね、心配かけて」

 そう言って、アイリスは少し照れながら笑みを浮かべた。ほっとしたアレンは皆のためにお茶を淹れようとキッチンへ向かった。アレンは楽しそうに話をしているアイリスを見ながらお茶の用意をする。そこへティムがきて声をかける。

「よかったね。無事に目覚めて」

「うん」

「気持ち、伝えないの?」

 アレンはアイリスをじっと見つめて、答える。

「うん、いいんだ。アイリスが生きていれば、それでいい」

 アレンはそう言って微笑み、皆にお茶を持って行くのだった。




 END
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44.魔女の思い 

四銃士

 そこはダイニングのようになっており、一人暮らしには大きすぎる10人掛けのテーブルがあった。壁にはいくつかの大きな絵画が飾られており、アレンが興味深そうに見ていると女がクスリと笑って言った。

「あまりまじまじと見ないで、掃除の粗が見つかったら恥ずかしいわ」

「あ、すみません。あまりに立派だったのでつい……」

 アレンはそう言って目を逸らした。女はフルーツをカットし、皿に盛りつけ、紅茶を淹れた。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 アレンは紅茶を一口飲んで言う。

「どうして大切な果実をくれようと思ったんですか?」

「いい子そうだったから」

「え?」

「ここにずっと住んでるけど初めてよ。フルーツバスケット持って来た子」

「そうなんですか。でも、それだけで?」

「ええ、それが一番大事よ。あの果実には活力をみなぎらせる力があるの。だから悪用されるわけにはいかないのよ。でもあなたなら大丈夫とみたわ」

「友人を救う以外には絶対に使わないと約束します」

「ええ、信じてるわ」

 アレンは女と和やかなティータイムを楽しみ、その後ティムたちの眠る部屋に戻ってゆっくりと休んだ。


 翌朝、アレンは皆よりも先に起きて窓の外を見ていた。美しく咲くバラの庭園がどこまでも続いている。庭では女が花に水をやり、バラを摘んでいた。しばらくするとティムがゆっくりと目を開けて周囲を見渡し、ブラッドとケイは飛び起きて自分の腕を確認する。アレンが気ついて3人に声をかける。

「おはよう。みんな身体に違和感はない? 大丈夫?」

「大丈夫だけど……ってあれ? そう言えば生きてる」

 ケイが不思議そうに言った。

「あいつはどうなった」

 ブラッドがアレンに聞くと、アレンは窓の外を見て言う。

「あそこにいるよ」

 ブラッドが窓辺に近づき、外を見る。女が花を摘みながら踊っている。ブラッドは眉をひそめて見つめた。ティムが不思議そうにアレンに尋ねる。

「僕たちも生きてるし、魔女さんも生きてるし、ベッドまで用意されてるってどういう状況?」

「昨日みんなが打たれたのは麻酔だったんだ。ナンシーさんは俺たちがどういう人間か知りたくて試したみたい」

 アレンが説明する。

「誰⁉ ナンシー?」

 ケイが聞く。

「あの魔女さんの名前ナンシーって言うんだって。昨日、お茶したときに教えてもらったんだ」

 ブラッドが呆れた様子でアレンを見て言う。

「のんきなものだな。変な奴が淹れたお茶をよく飲めるな」

 部屋の扉が開いて、ナンシーがバスケットにたくさんのバラを摘んで戻ってきた。ナンシーがアレンたちを見て明るく声をかける。

「あら、皆さんお目覚めね。庭でバラを摘んできたの。今、ローズヒップティー淹れるわ」

「いら――」

 ブラッドが断ろうすると、アレンがブラッドの腕をひいて遮るように答える。

「ありがとうございます。準備できたら向かいます」

 ナンシーは微笑んで奥の部屋へと歩いていった。ブラッドが腕を振りほどいて言う。

「おい、何のつもりだ。あんな変な奴が淹れたお茶を飲む気はないって言ってるだろ。それより果実はどうした」

「果実はもう昨日もらったよ。だから安心して」

 アレンが言った。

「そうなんだ。良かったじゃん!」

 ケイが嬉しそうに言った。

「だったらなおさら、こんなとこさっさと出るぞ」

 ブラッドがそう言って荷物を持ち、ティムとケイも荷物を持った。アレンがブラッドの荷物を奪って言う。

「待ってってば! 昨日、少し話して思ったんだ。彼女は悪い人じゃないって。それにずっと一人ぼっちでここにいるから寂しいらしいんだ」

「知るか、そんなこと。だったら街に出ればいいだろ。結界まではって他人を拒んでおいて何言ってんだ」

 ブラッドが荷物を奪い返して言った。

「魔女だから偏見持たれるし、大事な果実も守らなきゃいけないし、ナンシーさんもいろいろ事情があるんだよ。お茶の一杯くらい付き合ってよ」

 アレンが真剣な眼差しで言った。ティムとケイは荷物をそっと置いた。

「一杯くらい、いいんじゃない?」

 ティムがブラッドを見て言った。ブラッドは皆の顔を見回してため息をついて荷物を置いた。

「一杯だけだぞ」

 そう言ってブラッドは奥の部屋へと向かい、アレンたちも笑顔で顔を合わせ、後をついていくのだった。お茶会中ブラッドは終始無言だったが、何事もなく楽しく過ぎ去った。
 そして別れのとき、アレンたちは庭の門前に並んで立っている。

「アイリスちゃんが無事に目覚めること祈ってるわ」

 ナンシーが言った。アレンが軽く会釈して言う。

「はい。ありがとうございます」

 ナンシーが4人の前で両手を上に向かって大きく円を描くように広げた。すると、4人にふわっと風が吹きつけた。ブラッドが眉をひそめて言う。

「何だ。今、何をした」

 ナンシーが微笑んで言う。

「外に出たらわかるわ」

 4人は門を開けて城の外に出た。すると、舗装された石畳の並木道が真っ直ぐに続いていた。昨日通ったときは岩が転がる山道だったところだ。

「これって……」

 アレンが呆然としているのを見て、ナンシーが説明する。

「本当の景色はこれなの。城全体を結界で覆って、険しい山に見せているだけ。そうすると不気味がったり危ないと思って人が寄り付かなくなるからね。さっき、あなたたちに結界を見破る魔法をかけたの。これで迷わずに帰れるはずよ」

 ティムが周囲を見渡しながら言う。

「山ですらなかったなんてびっくりだね……」

 そしてアレンたちはナンシーに別れを言って、並木道をゆっくりと歩いて帰るのだった。
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43.命の選択 

四銃士

 女が改めてケイを見つめて言う。

「じゃあ、再開ね。あなたは戦地に向かうことになりました。どちらの装備セットを持って行く? A、ヘルメットと防弾チョッキ。B、剣と銃。さあ、どっち?」

 ケイが少し考えて答える。

「Bの剣と銃。だって戦えないじゃん」

「ブー! 不正解。戦地と言っただけで戦えとは言ってないわ。無闇に武装して行ったので殺されましたとさ」

 女はそう言って、ケイに吹き矢を放った。

「この、クソ……女……」

 ケイはそう言って意識を失った。

「ケイ! ケイ!」

 アレンが叫ぶ。ティムが恐怖でうつむく。

「さあ、次は……」

 女はそう言いながらティムにゆっくりと近づく。ティムはうつむいて目を閉じ、アレンは女をじっと見つめていた。女はティムの前で立ち止まって言う。

「あなた」

 ティムが恐る恐る目を開け、女を見上げる。女はティムを見つめて言う。

「第三問。ナイフを持った大柄の男性と、銃を持った少女が向かい合っています。あなたはどうする? A、少女に銃を向け、武器を捨てるように言う。B、男性に銃を向け、武器を捨てるように言う。さあ、どちら?」

「えっ、どっち⁉ わかんないよ……どっち?」

 ティムはおろおろしている。

「こんなの――」

「しっ! 口を出すのはルール違反よ」

 アレンが話そうとするのを女が遮って言った。アレンは、ぐっと唇を噛みしめてティムを心配そうに見つめる。女はティムを見て言う。

「さあ、どっち? あと5秒。4、3、2、1……」

「B! 男を止める!」

 ティムはそう言って目を閉じる。女はティムをじっと見つめて言う。

「残念! Aでした。人を見かけで判断してはだめよ? 少女に脅されていた男性は撃ち殺されちゃいました」

 ティムの顔から血の気が引く。

「あなたもゲームオーバーね」

「待っ――」

 アレンが女に言おうとしたとき、女が吹き矢をティムに向けて吹いた。矢はティムの腕に刺さり、ティムが矢を見つめて言う。

「嫌だ……死にたく……な……い」

 ティムは意識を失い、涙が一粒こぼれた。

「ティム……」

 アレンが肩を落とし、うつむく。女がアレンの前に立ち言う。

「次が最後よ」

「最初から渡す気なんかなかったんですね。さすが魔女、やり方が卑劣ですね」

 アレンが鋭い目つきで女を見上げて言った。

「あら、怖いわ」

「3人は答えを間違えたんじゃない。あなたが答えをすり替えたんだ。いや、そもそも答えなんてのはなかった。相手の答え次第でどうとでもなるように作られているんだ。そうでしょ?」

 女が笑みを浮かべて言う。

「ご明察。よくわかったわね。でもそんなに怒らないで。私、あなたのことは好きだからちゃんとした問題用意しているのよ?」

「どうして。ティムたちの何がいけなかったんですか⁉ 気に入らないからって、こんなの酷い!」

「そうね……。ブラッドは攻撃的。ケイは思いにふけらせてくれなかった。ティムは自分勝手で危険なことは全部誰かに押し付ける。あなただけが私や仲間のことをちゃんと考えてくれているわ」

「たった数分、数時間で全てを見たように言わないでください。ティムたちにもいいところはたくさんあるし、俺にだって悪いところはある。あなたに見えなかっただけです」

「そうね。きっとあるんでしょうね。でも好き嫌いをどこでいつ判断するかは私の自由よ」

 アレンは視線を逸らして黙り込んだ。女はアレンを見つめて言う。

「じゃあ、話はこれくらいにして最終問題にいくわね。今の現状でどちらを選ぶ? A、果実をもらう。B、3人を生き返らせる。さあ、どっち?」

 アレンは3人を見つめる。

「ゆっくり考えて。お茶を淹れて来るわ」

 女が奥の部屋へと歩き出したとき、アレンが答える。

「B」

「え? 本当にいいの? もう少し考えてもいいのよ?」

 女が振り返って言った。

「Bです」

 アレンは女を真っ直ぐに見つめて言った。

「そう。意思は固そうね」

 女はそう言って微笑んだ。

「大正解! お見事ね!」

 女はそう言って、指をパチンと鳴らした。すると、アレンを拘束していた鉄の錠が外れた。そして、もう一度鳴らすと、女の手元に金色の果実が現れた。女は驚いて呆然としているアレンに果実を手渡して言う。

「これはあなたのものよ。大切に持って帰ってね」

 女はそう言って優しく微笑んだ。

「え、あ、あの、正解って……」

「いやだわ。たった今、問題出したじゃない。もう忘れちゃったの?」

「え、だって……問題? あれは願望を聞くための二択だったんじゃ……」

「あら、ちゃんと問題って言ったわよ?」

 アレンは力が抜けたように椅子にもたれてつぶやく。

「じゃあ、3人はもう……」

「ちゃんと確認しないの?」

 女が言った。アレンは顔を上げ、急いでティムの元へと駆け寄った。ティムの胸に耳を当てたアレンから笑顔がこぼれる。

「生きてる」

 女がパチンと指を鳴らすと、ベッドが4つ現れ、もう一度鳴らすとティムたちの拘束が解かれた。そしてティムたちの身体は宙に浮かび、ベッドへと運ばれた。

「彼らは朝まで起きないからあなたもゆっくりしていくといいわ」

 女がフルーツバスケットを持って奥の部屋へと行こうとして振り返る。

「よかったら一緒にいかが?」

 アレンは女について奥の部屋へと向かった。
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42.クイズ大会 

四銃士

 アレンが驚いてブラッドを見る。

「どうしたのそれ!」

 ブラッドが目を逸らす。

「フルーツ買ってきたあのときだろ!」

 ケイが言う。ティムもブラッドを見て言う。

「騙すなんて酷い!」

 その様子を見て女が言う。

「あら、みんなほんとに知らなかったみたい」

 ティムが女に向かって言う。

「本当に知らなかったんです! 僕たちは危害を加える気なんてなかったんです!」

 アレンも続けて言う。

「怖がらせてしまったことは謝ります。でも、ブラッドだって本気で使うつもりがあったわけではありません。身の安全のために持ってただけで、何もしてこない人に危害を加えるような人じゃないんです!」

 女が二人を見つめる。ケイがブラッドに言う。

「あんたも何か言いなよ。あんたのせいでしょ!」

 ブラッドは女を見上げて話し出す。

「あんたに危害を加えるつもりで用意したものじゃないのは確かだ。ここにはドラゴンがいるって街で聞いたからな。あんたと同じで自衛のために持ってただけだ」

「ドラゴンね、懐かしいわ……」

 女が言った。ティムが恐る恐る尋ねる。

「今はいないんですか?」

「ええ、もう何十年も前にどこかへ行ってしまったの」

 ティムはほっとした顔をして続けて尋ねた。

「どうして?」

「私との二人きりの生活に飽きちゃったのね、きっと。今も、どこかの森の奥で元気にしていることを願うわ。いつかまた会いたいわね……」

 女はそう言って、窓の外を見て思いにふける。アレンたちは顔を見合わせ、無言で目配せし合う。アレンが渋々女に声をかける。

「あ、あの――」

「待って。もう少し思いにふけりたい気分なの」

 女はアレンの言葉を遮って窓の外を見続けた。アレンは黙ってティムたちの顔を見る。ケイが小声でティムに言う。

「待つ必要ないってアレンに言って。変な女に付き合ってるほど私たち暇じゃないんだから。さっさと本題入れって」

 ティムがアレンの方を見て小声で言う。

「待たなくていいから、本題に入れだって」

「そんなこと言われても、機嫌損ねたらどうすんの?」

 アレンも小声で返す。ティムがそれをケイに伝え、伝言ゲームのように話していたら、突然、女が振り返りアレンたちの方を見た。アレンたちは驚いて、姿勢を正して口を閉じた。

「ありがとう、時間をくれて」

 女はそう言って微笑み、アレンたちはひきつった笑顔を返すのだった。

「それでお願いって何なの?」

 女がアレンを見て言った。

「こちらに金色の果実があると聞いて来たのですが、一つ譲っていただけませんか?」

「なぜ?」

「友人がシーダイヤという果実を口にしてしまって昏睡状態なんです。助けるには金色の果実が必要だと聞いて」

 女は少し考えて、話し出す。

「わかった。譲ってあげてもいいわ。ただし今から私が出題する問いに一つでも正解することができたらね。どうする?」

 4人は顔を見合わせる。女が追加で言う。

「あ、それと、回答者は私が選ぶわ」

 アレンが代表で答える。

「やります」

「決まりね」

 女は笑顔で楽しそうに言い、ゆっくりと歩き出してブラッドの前で立ち止まる。

「では、第一問。回答者はあなた」

 ブラッドが女を見上げる。

「あなたは重要な取引をするために相棒を連れて現場へと向かうことになりました。どちらの人を連れて行く? A、戦闘力が高く、頭の回転が速い冷静な人。B、優しさと愛嬌のあるドジな人。さあ、どっち? 相談は禁止よ」

「A」

「あら、即答。もっと考えなくていいの?」

「Aだ。愛嬌なんか何の役に立つ」

「そう……。ブー! 不正解よ。正解はB。Aは威圧的だと相手を不快にさせて二人とも殺されちゃいました」

 女はそう言って、どこからか吹き矢を取り出し、ブラッドに向けて吹いた。矢はブラッドの腕に刺さる。ブラッドは眉をしかめる。

「何のまね……だ……」

 ブラッドがそう言って意識を失くした。ケイたちは驚いてブラッドを呼ぶが反応はない。

「あんたブラッドに何したんだよ!」

 ケイがにらみつけて言った。

「答えを間違えたから罰として死んでもらったのよ」

 女が笑顔で言った。

「罰⁉ そんなの聞いてない! 酷いよこんなの!」

 ティムが女に向かって言った。

「ちゃんと聞かずに決めたのはあなたたちよ。何のリスクもなく簡単にもらえると思う方がおかしいんじゃないかしら」

「ブラッド……」

 ケイが見つめていると、女がケイの前に立ち止まる。

「第二問――」

「待ってください!」

 女が問題を出そうとしたとき、アレンが言葉を遮った。

「彼女は関係ないんです。次は俺が答えます。それでもし不正解だったら、果実は諦めるので二人を解放してください。お願いします」

 アレンがそう言い、ティムとケイが驚いてアレンを見る。

「だめだよ、アレン! もう帰ろ。どんな問題がくるかもわからないのに危険だよ」

 ティムが言った。

「回答者は私が決めると言ったはずよ。それにもう一つ言ってなかったけど途中棄権はできないの」

 女がそう言うと、アレンとティムは肩を落とした。ケイは女をにらみつけて言う。

「私は逃げない。やってやろうじゃないの。あんたみたいな卑怯者のクソ女には負けない」

「ケイ……」

 アレンが心配そうに見つめる。
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41.アルカイド山へ 

四銃士

 翌朝、商人の家の前には30人くらいの様々な年齢の男女が集まっていた。クレイグ捜索隊である。アレンたちは皆に礼を言って、見送られながら出発した。それから小一時間ほど歩き続けてアルカイド山の麓にたどり着いた。足場はごつごつとした岩がたくさんあり、辺りには霧がたちこめている。山に入ると空気が少しひんやりとした。ケイが周囲を見渡して言った。

「たしかに気味悪いね」

 虫の声や鳥のさえずりも聞こえず、静けさに包まれていた。4人は周囲を警戒しながらゆっくりと進んだ。しばらく歩いてティムが言う。

「うさぎとか鹿とか一匹くらい出会ってもいいのに何の生物もいないのかな……」

 そう言った途端、一羽のカラスが木から木へと飛び移った。皆が驚き、カラスを見る。カラスは鳴き声を上げてどこかへと飛び去って行った。

「鳥はいたみたい」

 アレンがつぶやく。

「一羽だけな」

 ブラッドが意味あり気に言った。ケイが周囲を見て言う。

「こんな気味悪いとこに一泊するとか最悪だな……」

「一泊で済めばいいがな」

 ブラッドの言葉で皆の顔がひきつる。

「急ご」

 ティムがそう言って、少し早歩きで歩き出した。それから一日中歩き続けた。さすがに疲れた4人はその場に座り込んだ。

「なんかさ、進んでるのに進んでる感覚がしないな……」

 アレンが言った。

「わかる! 延々と同じとこ歩いてる感じ」

 ケイがすかさず返す。ブラッドがきょろきょろと周囲を見ているのに気づいたティムが声をかける。

「どうしたの?」

「いや、気のせいか……」

「何が?」

「誰かに見られているような視線を感じてな」

「え? いつから?」

「今日、一日中ずっとだ。いや、カラスを見た後くらいか……」

「そう言えば、あのカラス以降、他の動物一匹も見てないね」

「ああ」

 ブラッドがふと空を見上げる。霧が晴れて美しい満月が輝いていた。ブラッドは気にも止めず目を逸らしたが、違和感を覚えてもう一度じっと空を見つめた。その様子を見たアレンが声をかける。

「ブラッド?」

「アレン、空を見てみろ」

 ブラッドが言った。アレンが空を見上げ、ティムとケイも見上げる。

「何? 月じゃん」

 ケイが言う。アレンはしばらく見つめてからはっとする。

「満月⁉」

「何、満月がどうかしたの?」

 ケイが不思議そうに聞く。アレンがケイに向かって話す。

「俺たちが月の花を手に入れたのがちょうど満月だった。あれから数日経ってるのにまだ満月なのはおかしい」

「え……じゃあ、つまりどういうこと? 今、私たちはどこにいるわけ?」

「あ! 星もないよ? こんなに晴れてるのに変だよ」

 ティムが言った。ブラッドが周囲を見渡しながら話し出す。

「これで全ての違和感が繋がった。動物がカラス一羽なのも、ずっと感じていた視線も、進んでいないような感覚も、星がないのも、不自然な満月も、この空間全てが何者かによって作られたところだからだ。山に入ったときから俺たちは敵の手の中だったってことだな」

「ど、どうしよう……」

 ティムが不安そうに言った。そのとき、周囲に次々とライトが点灯する。まぶしさで目を閉じる4人だったが、少しずつ目を開く。すると、今まで岩だらけの山道だったはずが、美しいバラの咲く庭園の真ん中に立っていた。ケイは驚いて周囲を見渡す。ブラッドは鋭い目つきで周囲を警戒する。4人の前方には大きな城が建っており、城の扉がゆっくりと開いた。

「入れということか……」

 ブラッドがつぶやく。

「罠かなあ?」

 ティムが不安そうに言う。

「わからない。でも、行くしかない。みんな行くよ」

 アレンがフルーツバスケットをぎゅっと持ち直して歩き出す。皆も後をついて行く。


 城の中へと入ったが誰もいない。アレンが周囲を見渡しながら言う。

「失礼しまーす……」

 すると、広間の扉が音を立てて開いた。アレンたちは顔を見合わせて、ゆっくりと広間に入って行く。4人が広間に入った途端、扉が勝手に閉まり開かなくなった。広間の中央には、木製の頑丈そうな椅子が4つ横一列に等間隔で置かれている。アレンたちが椅子の近くまで来ると、キャットウォークからブロンズのロングヘア―の女が姿を見せた。女は微笑みを浮かべて4人を見下ろして声をかける。

「いらっしゃい。荷物を全て椅子の横のかごに置いて、椅子に腰かけて」

 アレンたちは言われるままに剣や銃をかごに入れる。

「あの、これよかったら食べてください。ミザールの市場で買った果物です」

 アレンはそう言って、かごの隣にフルーツバスケットを置いた。

「ありがとう、優しいのね」

 女は微笑んで言った。4人は顔を見合わせながら、恐る恐る椅子に腰を下ろした。全員が座ると同時に椅子から鉄の錠が飛び出し、手足を固定されてしまう。4人は驚き、外そうと動かすが外すことはできなかった。女はそれを確認してキャットウォークから降りてくる。女はフルーツバスケットを手に取って言う。

「まあ、すてきな贈り物。こんなのもらったの初めてよ。ありがとう」

「い、いえ。あ、あの、これは……」

 アレンが恐る恐る聞く。女は笑顔で答える。

「身の安全は自分で守らないとね。誰も守ってくれないから」

 アレンが慌てて言う。

「危害を加えるつもりはないんです。少しお願いがあって伺わせてもらったんです」

「そうなの……」

 女はそう言いながら、ティムとケイの前を通り過ぎ、ブラッドの前で立ち止まる。

「何だ」

 ブラッドが女を見上げて言う。女は黙ってブラッドのベストのチャックを下ろした。すると、ベストの内ポケットにダイナマイトが3つ入っていた。女はダイナマイトを取り出して、アレンに見せながら言う。

「これでも?」
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40.ダイナマイトかフルーツか 

四銃士

 ティムが気乗りしない様子で言う。

「うーん……。いくらドラゴンだからってダイナマイトで吹っ飛ばしちゃうのは嫌だな」

「そんなこと言ってる場合か。やらなきゃやられる」

 ブラッドが冷たく言った。ティムが不満そうな顔をする。ケイがティムを見て言う。

「あんたそんなんじゃ死ぬよ? そんな覚悟でよくここまで来れたよね。全滅したらアイリス助けられないんじゃないの?」

 黙って聞いていたアレンが口を開いた。

「いや、ティムの視点は大事だよ。俺もどうやって倒そうって考えてたけど、ドラゴンは魔女のペットって言ってたし、怪我させたり殺したりなんかしたら怒らせちゃうんじゃないかな」

 ティムの表情が晴れやかになり、ブラッドとケイを見て言う。

「そうだよね。魔女を怒らせたら、金色の果実がもらえなくなるかも」

「じゃあ、どうすんの?」

 ケイが言った。アレンが少し考えてから言う。

「手土産もって行く?」

 ブラッドが眉をひそめて言う。

「何言ってんだおまえ。親戚のババアに会いに行くんじゃないんだぞ」

「わかってるよ。でも果実は魔女が大切に育ててるものだよ? それを譲ってもらうんだからそれなりに何か必要かなって」

 アレンがそう言うと、ティムが笑顔で同意する。

「僕はありだと思う!」

 ケイが腕を組んで言う。

「面白い案ではある。一か八かだけどね」

「じゃあ、多数決で決まり!」

 ティムがそう言って手を叩いた。

「勝手にしろ」

 ブラッドはそう言って立ち上がり、部屋を出て行った。

「あらら、怒っちゃった」

 ケイが言った。

「大丈夫。意見が合わないとよくああなるの。でもしばらくしたら帰って来るから」

 ティムが言った。


 部屋を出たブラッドは当てもなく街を歩いていた。しばらく歩くと商店が並ぶ通りに着いた。何も買わずにただ歩いていたとき、フルーツバスケットがふと目に止まった。ブラッドは目を逸らして立ち去ろうとするが、結局引き返してフルーツバスケットを購入した。その帰り道、ある店がまたもブラッドの目を引き付けた。ブラッドはフルーツバスケットにちらっと視線を落とし、少し見つめてから店へと入っていった。

 その頃、アレンたちはリリーの手伝いをしていた。リリーは忙しそうに夕食の準備をしている。アレンたちはテーブルに食器を並べ、できあがった料理を運びながら話をしている。

「あいつどこ行ったんだよ。もうすぐ夕食だってのにさ」

 ケイが言った。

「家の周辺探してみたけどいないみたい」

 ティムがアレンに言う。アレンが悩んでいると、ブラッドが帰ってくる。ブラッドがフルーツバスケットを持ち上げて言う。

「手土産、買ってきたぞ。持って行くんだろ」

 アレンたちは顔を見合わせ微笑んだ。そしてそれぞれ席につき、夕食を食べはじめた。リリーがアレンに話しかける。

「明日、アルカイド山に向かわれるのですよね?」

「はい、その予定です」

「アルカイド山は岩山です。馬をつれて行くのは不便だと思います」

「そうなんですか?」

 商人の男が話に割り込む。

「うちの小屋に置いて行かれたらどうですか? みなさんが帰ってくるまでしっかりとお世話させていただきますよ」

「お任せください」

 リリーも笑顔で言った。

「ありがとうございます。では、お願いします」

 アレンはそう言って頭を下げた。

「やめてください。あなた方は命の恩人です。私にできることなら何でも協力させてほしいのです」

 商人の男が言った。そうしてアレンたちは食事を終え、部屋に戻って眠りについた。皆が寝静まった頃、アレンはそっと目を覚まし、部屋の壁に立てかけた剣を手に取り、そっと抱きしめるのだった。


 森に取り残されたクレイグは、足の骨が折れて歩けなかったが生きていた。頭から血が流れ、服はところどころ破れ、土や泥で汚れている。岩壁にもたれて静かに夜が明けるのを待っていた。そのとき右手に冷たい何かが触れた。クレイグは思わず手を振り払い、右を見ると毒蛇が威嚇しながら近づいてくる。

「マジかよ……最悪。この森はどうしても俺を殺してえみたいだな」

 クレイグは近くにある木の枝をつかみ、蛇を追い払おうと振り回す。しかし、蛇は逃げるどころかますます興奮して攻撃的になってしまった。そしてついにクレイグの右手に噛みついた。

「いって!」

 クレイグは蛇の頭をつかみ、引き離して力いっぱい遠くへと放り投げた。蛇はどこかへ飛んでいき見えなくなった。クレイグは右手を押さえ、毒をしぼりだそうとする。しかし、だんだんと右手がしびれてきて息が上がる。

「くそっ……」

 意識が朦朧とする中、クレイグは思い出したようにポケットから小さな袋を取り出す。震える手で袋を開け、中に入っている黒い粒を取り出して口へと運んだ。そしてクレイグは意識を失った。クレイグの左手から小袋が落ち、中の黒い粒がいくつかこぼれ出た。
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39.魔女の伝説 

四銃士

 商人の男が話し出す。

「アルカイド山の山頂には昔から魔女が住んでいると言われています。魔女はペットとしてドラゴンを飼い、城を守っていると。そして森で遭難した者をドラゴンのエサにし、妖力で育てた金色の果実を食べて永遠の命を得て生き続けている。そんな童話のような話ですよ」

 4人は真剣な眼差しで話を聞き、ブラッドが地図を広げた。

「アルカイド山、ここならシビルが印をつけた地域内だ」

 ブラッドはそう言って地図を指さす。皆も地図に目を向けて確認した。そしてティムが商人の男に向けて礼を言う。

「ありがとう、おじさん。これで目的地がはっきりしたよ」

 商人の男は慌てて止める。

「アルカイド山に行くつもりですか⁉ やめた方がいい。地元の人間も不気味がって近づかない場所ですよ⁉」

「私たちがただの噂か確認してきてやるよ。任せな」

 ケイが明るい口調で言った。商人の男はため息をついて言う。

「命知らずな方々ですね……」

「どうしても確かめなくてはいけないんです。大切な人の命がかかっているんです」

 アレンがそう言うと、商人の男が真剣な眼差しでアレンを見つめて言う。

「わかりました。何かよほどの事情があるのですね。でしたら彼の捜索は私たちに任せてください。責任をもって捜します。皆さんは疲れが取れ次第、出発なさってください」

「いいのか?」

 ブラッドが言った。

「もちろんです」

 商人の男は笑顔で答える。

「でも……」

 アレンは躊躇していた。見かねたブラッドがアレンに言う。

「捜索に何日かかるかわからない。アイリスをいつまで待たせるつもりだ? あと一つなんだぞ。誰かがやってくれることより、俺たちにしかできないことをするべきじゃないのか?」

「そうですよ。任せてください」

 商人の男がそう言って微笑んでいる。ティムもケイも頷いている。アレンは皆の顔を見回して決心する。

「そうだね。では、よろしくお願いします」

 アレンがそう言って頭を下げる。ブラッドは鞄から薬の小瓶を取り出して、商人の男に渡しながら言う。

「もし俺たちが戻る前にクレイグを見つけて、怪我してたらこれを飲ませてやってくれ」

 商人の男は小瓶を見ながら言う。

「これは……薬ですか?」

「ああ、頼んだぞ」

「はい、必ず」

 商人の男は笑顔で薬の小瓶を受け取り、大事そうに両手で持った。そして話を続ける。

「ところで今夜の宿はお決まりですか? よろしければ手狭ではありますが、うちにお泊りになりませんか? 娘もお礼がしたいと言っていたんですよ」

「まだですけど、そんな何から何までお世話になるわけには……」

 アレンが言った。

「そんな遠慮なさらないでください。さあさ、家まで案内いたします」

 商人の男はそう言って、アレンの荷物を抱えて店の外へと誘導するように歩き出した。4人は立ち上がりついて行くのだった。
 しばらく歩くと、平屋の前で商人の男が立ち止まる。

「ここです。お馬さんたちはあちらに小屋があるので、そちらにお願いします」

 そう言って、家の中へと入っていった。アレンたちは馬を小屋までつれて行く。ティムが馬を小屋に入れながら話し出した。

「泊まるところ見つかってよかったね。親切な人だよね。申し訳ない気持ちになっちゃった。アレンが助けるって言わなかったらきっと見捨ててたと思うし、ぞっとしちゃった」

「俺だってそうだよ……」

 そう言ってアレンが話始める。

「クレイグが行方不明になって、俺が助けたいって言ったからって一瞬でも考えた。でもそれって怖いことだよ。反省した」

 ケイがアレンの肩を軽く叩いて言う。

「あんたってほんと素直だね。人は誰だって他人と友人なら友人を助けたくなるって。当然だよ」

「そうだよ。僕なんてあの商人さんが親切だから後悔してるのかもって思うよ。自分に利益をもたらしてくれるから、助けるべきだったって後悔してる僕ってやばくない⁉ 僕こそ反省しなきゃ」

 ティムが言った。

「ほら、行くぞ。あまり長いと不審がられるぞ」

 ブラッドがそう言って玄関の方へと歩き出した。ケイがブラッドを横目で見て言う。

「あんたこそ反省すべきだと思うけどね。能天気な奴とか酷いこと言ったくせに」

「事実だろ」

 ブラッドは振り返ることなく歩いて行った。アレンとティムもその後を追い、ケイは呆れた様子でついて行った。
 玄関先で、商人の娘らしき女性が立っていた。

「はじめまして、娘のリリーです。父を助けていただきありがとうございました。どうぞ、中へ入ってください」

 アレンたちはリリーについて中へと入っていく。6畳分くらいの小さな部屋に布団が3つたたんで置かれている。

「男性の方たちはこちらで、女性の方は私と同じでもよろしいですか?」

 リリーがそう言ってケイを見る。

「いや、ここに一緒でいいよ」

「わかりました。では、お布団は後ほどお持ちしますので、夕食までゆっくり休んでください」

 リリーはそう言って、軽く会釈して部屋を後にした。アレンたちは部屋の隅に荷物を置き、床に腰を下ろした。

「ところでさっきの薬はどうしたの?」

 ティムがブラッドに尋ねる。

「シビルにもらった」

「え⁉ シビルに会ったの?」

 ティムが驚く。

「冒険には回復薬がいるだろって届けにきた。あれが最後の一つだからもう無いけどな」

「そっか、それでブラッドも回復したんだね。よかった」

「それよりドラゴンの攻略法を考えた方がいいんじゃないのか?」

 ブラッドが話を変える。アレンも頷いて言う。

「そうだね。本当にいるとしたらかなり危険だよね」

「一番いいのは遭遇しないことだね。僕らの力じゃ何もできないと思う」

 ティムがそう言って、ケイも同調する。

「遭遇したら逃げる。無理なら死を覚悟するってことだね」

「ダイナマイトはどうだ?」

 ブラッドが言った。

「なるほどね! 今の装備では無理でも爆弾ならいけんじゃない?」

 ケイが頷く。
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38.ミザールの街 

四銃士

 ブラッドが静かな口調で言う。

「死んでたら? 確率的にはあの高さから落ちれば死ぬ。死体を捜すために自分たちの命を懸けるのか? この先何があるかわからないのに、これ以上人員減らすつもりか? 本気でアイリスを救いたいなら先のことも考えるべきだろ」

「死んでない……クレイグは絶対生きてる!」

 アレンが言うと、ケイがアレンの肩に優しく手を添えて言う。

「気持ちはわかる。私だって生きていてほしいさ。でもぶっちゃけ厳しいと思う。今回はブラッドの意見に従った方がいいんじゃない? 今はとにかく逃げてさ、後で捜そ。私も手伝うからさ」

 アレンは崩れ落ちるように膝をついて涙を流した。ティムも溢れる涙を拭いながらアレンの肩をさすった。ブラッドはぐっと涙をこらえて言う。

「そろそろ行くぞ」

 アレンは涙を拭って静かに立ち上がり、ケイに支えられながら歩き出した。

「あ、そうだ。馬がみんな逃げちゃったんだ」

 ティムがそう言って指笛を吹こうとしたとき、ブラッドがすかさずティムの手を払って言う。

「やめろ、奴らに見つかるだろ。馬は俺たちが見つけたから大丈夫だ」

 そしてしばらく歩き、馬をつれて森を後にした。


 森を出たアレンたちは、ミザールの街に来ていた。大衆食堂に入った4人は疲れ切った様子で並べられた食事に手を付けることなくただ座っている。重々しい空気の中、ケイがから揚げを箸で刺し、口に放り込んで言う。

「これ食べたら宿探してくるよ。今日はこの街でゆっくりするだろ?」

「うん……」

 ティムが上の空で答えた。今まで黙っていたアレンが突然語り出した。

「クレイグ、嫌そうだったのに。俺が助けたいなんて言ったから……」

「何のことだ」

 ブラッドがアレンに言う。ティムが事の経緯を話した。するとブラッドの表情が険しくなった。

「ティムとクレイグが止めたのに勝手に返事して巻き込んだのか? しかも言うこと聞かないわがまま商人のために」

 アレンは黙ったままうつむいている。ブラッドは話を続ける。

「それでよく俺を友達じゃないと責めれたな。おまえがしたのは友達にすることなのか? 見ず知らずのおっさん助けて、嫌がる友人を危険に晒して。何とか言えよ偽善者が」

 ティムが慌てて話に割り込む。

「ちょ、ちょっと待ってよ。言い過ぎだよ。勝手に行くって決めたかもしれないけど、ついて来いとは言われてない。僕らは自分の意思でついて行ったんだよ」

 黙って聞いていたケイも口を開き、ブラッドを見て話し出した。

「そうだよ。その辺でやめときな。腹を立てる相手を間違えてるだろ。アレンじゃなく賊どもだろ? 人助けは悪いことじゃない。アレンみたいな奴がいるから希望があるんだよ。みんな自分のことしか考えなくなったら殺伐とした世の中になる。そうだろ?」

 ブラッドが目を逸らし、黙り込む。

「あの……すみません」

 ケイの背後から小さな声がした。ケイが振り返ると商人の男が立っていた。

「誰だよ!」

 ケイが言うと、ティムが男を見て言った。

「あ! あのときの商人さん!」

 アレンがゆっくりと顔をあげて商人を見る。

「よかった。無事だったんですね……」

 アレンは力なく微笑んで言った。

「あのときはありがとうございました。おかげ様で娘にドレスを届けることができました」

 商人の男は嬉しそうに話した。

「よかったです」

 アレンは視線を落として言った。ティムも浮かない表情で黙って座っている。商人の男が心配そうに二人を見つめて尋ねる。



「何かあったのですか?」

 ケイが商人の男の腕を軽く叩いて言う。

「疲れてんだよ。そろそろいいだろ? そっとしといてやって」

「あ、そうですね。すみません」

 商人の男が会釈して立ち去ろうとしたとき、ブラッドが口を開く。

「なぜ隠す。正直に言えばいいだろ」

 ケイがブラッドの腕を叩いて言う。

「あんたは黙ってな!」

 しかし、ブラッドはそのまま話を続けた。

「助けてくれた恩人が一人いないことにも気づかず、能天気に話しかけてくる奴に気遣う必要あるのか?」

 商人の男ははっとした様子でアレンを見る。

「まさか、あの金髪の青年に何かあったのですか⁉」

 アレンは小さな声で、少し言いにくそうに答えた。

「崖から落ちてしまって行方不明なんです」

 驚いた商人の男は詳細を尋ねる。アレンの代わりにティムが転落した場所、経緯などを話した。すると商人の男は少し考えてから話し出す。

「私に彼を捜す手伝いをさせてください。森に詳しい者を何人か知っていますし、体力のある者をたくさん集めましょう。きっと怪我をされているでしょうから早く見つけてあげた方がいい」

 アレンが商人の男を見つめて涙をにじませる。

「いいんですか?」

 商人の男は優しい笑みを浮かべて答える。

「当たり前じゃないですか。ここで恩人を見捨てたら娘に怒られますし、罰が当たりますよ」

「ありがとう、おじさん!」

 ティムが笑顔で言った。ケイがブラッドを肘で小突いて言う。

「あんた、何か言うことあんじゃないの?」

「あいつのわがままとアレンのせいでこうなったんだ。俺が礼を言う必要はない」

 ケイはさっきよりも強めに肘で小突く。商人の男がケイを見て言う。

「いいんですよ。その通りですし。ところで皆さんはミザールに何をしに来られたのですか?」

「金色の果実というものがこの辺りの地域にあると聞いて探しに来たんです」

 アレンが答える。

「ああ! 伝説の魔女の実のことかな?」

「魔女の実?」

 アレンが聞くと、商人の男は微笑んで言う。

「噂ですよ。実際に見た人なんていないんじゃないでしょうか」

「聞かせてください。その噂を」

 アレンが真剣な眼差しで言った。
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37.崖っぷちのバトル 

四銃士

 森へ入り、しばらく行くと馬車の荷台が横転して積み荷が散乱していた。その横で車体に手綱が引っかかり、馬がもがいている。ティムが急いで馬から降りて、馬車に駆け寄る。転倒している馬をなだめながら、引っかかっている手綱を外して馬を救出する。ティムが馬に声をかける。

「大丈夫? もう平気だよ」

 そう言って馬を撫でながら怪我がないか確認する。アレンと商人の男は散乱した積み荷の中からドレスを探していた。商人の男が箱を見つけて、アレンに向けて箱を掲げて言う。

「ありました! ドレスも無事です!」

「よかった」

 アレンはほっと胸を撫でおろした。そのとき、周囲の警戒をしていたクレイグが異変に気がつく。

「アレン、ティム気をつけろ。囲まれてるぞ」

 クレイグは小声で言い、そっと剣の柄を握る。商人の男はドレスの入った箱を抱きかかえるように持ち、周囲を見渡した。アレンとティムも剣を抜き、商人の男を守るように構える。その瞬間、周囲の茂みから複数の山賊が現れて、アレンたち向けて矢を放つ。それと同時に数頭の山犬も放たれて襲いかかってくる。驚いたアレンたちの馬はどこかへと逃げていった。アレンが商人の男に言う。

「逃げてください!」

 ティムは商人の馬の手綱を手渡す。

「で、でも……」

 商人の男はおろおろしながらティムの顔を見る。

「大丈夫。早く行って。娘さんにドレス届けるんでしょ!」

 ティムはそう言って、商人が馬に乗るのを手伝って馬の尻を軽く叩いた。馬は勢いよく駆け出す。

「ありがとうございました!」

 商人の男は大声で叫びながら遠ざかって行った。

「くそっ。どうすんだよ、これ。馬もどっか行っちまうし」

 クレイグは飛んでくる矢をなぎ払い、山犬を蹴り飛ばしながら言った。

「と、とにかく隙を見て逃げよう」

 アレンはそう言いながら山犬を鞘で追い払った。

「二人とも、こっち!」

 ティムが少し離れたところから手招きして呼んでいる。二人はティムの方へと駆け出し、その後を山賊と山犬が追いかける。足場の悪い山道を戦いながら逃げ続け、ついに崖に追い詰められてしまう。山賊たちがじりじりと距離を詰める。

「ど、どうしよう……」

 ティムが言う。

「こうなったら全員倒すしかねえだろ」

 クレイグが息を荒げながら言った。アレンたちは足場の悪い崖の近くで戦っていた。アレンが山賊の攻撃をかわしたとき、バランスを崩して崖から落ちそうになる。山賊はアレンに追い打ちをかけようとする。

「アレン!」

 クレイグが気づいて、山賊を斬りつけ、山賊はその場に倒れる。クレイグはふらつくアレンに駆け寄り、手をつかんで力いっぱい引き寄せる。アレンは勢いよく引き戻され、地面に両膝をついた。しかし、その代わりにクレイグが崖から落ちてしまった。

「クレイグ!」

 アレンが崖に向かって叫び、肩を落とした。そんなアレンに山賊は容赦なく襲いかかる。

「アレン危ない!」

 ティムが叫んだ。そのとき銃声が鳴り響き、アレンに襲いかかろうとしていた山賊が倒れた。ティムが銃声のした方を見ると、ブラッドが銃を構えて立っていた。その横にはケイが剣を構えている。

「ブラッド!」

 ティムが笑みを浮かべて言う。ケイは近くにいた山賊を思いきり蹴り飛ばし、殴りつけた。ブラッドもまた、山賊を容赦なく斬りつけ、次々と倒していく。そしてあっという間に全ての山賊を片付けた。ブラッドは剣を鞘に戻し、ケイはアレンの元へ駆け寄る。

「大丈夫⁉」

 ケイが声をかけると、涙を浮かべたアレンが震える手でケイの腕をつかんで言う。

「クレイグが……クレイグが……」

 ケイは戸惑いながらアレンの手を握る。ブラッドとティムもアレンの元へと近づいた。

「どうした」

 ブラッドがアレンに聞くと、ティムが小さな声で答える。

「クレイグがアレンを助けて崖から落ちた」

 ケイとブラッドは驚いて崖の下を覗く。

「ここから⁉ やばいんじゃないの?」

 ケイがブラッドを見て言う。ブラッドはしばらく黙って崖を覗いていたが、アレンを見て言う。

「立て。急いで森を出るぞ」

「嫌だ。クレイグを捜す」

 ブラッドはアレンの腕をつかんで立ち上がらせながら言う。

「だめだ。残党に見つかる前に森を出る」

 アレンは腕を振りほどいて言う。

「クレイグを見捨てるわけにはいかない!」

「目的を見失うなと何度言えばわかるんだ」

 ブラッドが言った。

「見失ってない! みんな無事に帰るんだ。捜しもせず見捨てるのなんか友達じゃない!」

 アレンは鋭い視線でブラッドを見て言い、涙を拭い歩き出す。

「待て。おまえの意見はわかった」

 ブラッドが言った。アレンは立ち止まって振り返る。静かに見守っていたティムが安堵の表情を浮かべる。ブラッドが話を続ける。

「今まで集めた素材を渡せ。残り一つは俺が探してやる」

 そう言って、ブラッドは右手を差し出した。ティムが慌てて話に割り込む。

「えっ⁉ ちょっと待ってよ。みんなで捜すんじゃないの?」

「さっきも言っただろ。残党が森をうろついてるはずだ。今回は少人数だったが、次もそうとは限らない。捜すとしても今じゃない」

 ブラッドが言った。

「でも、今捜さないと間に合わないかもしれない。崖から落ちたんだ無傷なわけないし、クレイグが残党に見つかったら? 逃げることもできない」

 アレンが言う。

「どうすればいいんだろ……」

 ティムがつぶやいた。
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36.商人を救え 

四銃士

 アレンたちは剣を抜き、クレイグが言う。

「わかってるなティム。あいつらさっさと片付けて、馬車を森から離すんだぞ!」

「了解!」

 一人の賊がクレイグ目掛けて弓を放った。クレイグは矢をなぎ払い、賊に突っ込み斬りつける。もう一人がアレンの元に曲刀を振り回しながら近づいてくる。賊は卑しい笑みを浮かべて言う。

「俺たちにたった3人で挑んでくるとは命知らずな奴らだなあ。ケンカ売ったことをたっぷりと後悔させてやる」

 そう言った賊がアレンに斬りかかる。アレンはギリギリでかわし反撃する。しかし賊もかわす。ティムも加勢し、両サイドから攻撃を仕掛けるが賊になかなか当たらず苦戦する。その様子に気づいたクレイグが少し離れたところから銃を構える。

「悪いな」

 そう言って引き金を引いた。銃弾は賊が乗る馬に見事命中する。馬が声を上げて倒れ、投げ出された男は地面に体を強く打ちつけて倒れた。ティムは心配そうに馬を見つめ、アレンは心配そうに男を見つめた。

「急げ!」

 クレイグが叫ぶ。二人は馬を急がせ、荷馬車を追いかけた。何とか追いつき、包囲している賊を蹴散らそうと攻撃を仕掛ける。クレイグは攻撃しながら、荷馬車に乗る商人に話しかける。

「おい、あんた! こいつらは俺らが何とかするから隙を見て逃げろ! 森には入んじゃねえぞ!」

「わ、わかった! すまない」

 商人の男はそう言って、手綱をぎゅっと握った。

「そうはさせるか!」

 賊の男がそう言ってクレイグへの攻撃を強める。クレイグは上手くかわしながら賊に攻撃を仕掛け、少しずつ荷馬車から遠ざける。アレンたちも同じように賊を遠ざけた。しかし、荷馬車は一向に進路を変えようとせず、真っ直ぐに森へと向かっていく。

「くそっ、何やってんだ」

 クレイグがつぶやく。そして苦戦しながらもなんとか賊を追い払うことに成功する。しかし荷馬車は依然として森へと向かっていた。クレイグはもう一度商人に声をかける。

「おい! 何やってんだ! 森に行くなって言ってんだろ!」

 商人がおろおろとした様子で答える。

「馬がパニックを起こしたらしくて言うことを聞いてくれないんだ!」

「くそっ、マジかよ……」

 クレイグが周りを見渡し、ティムを呼ぶ。

「おい! 馬がパニくったらしい。何とかできねえか?」

 ティムが近づき、馬の様子と森との距離を見る。

「無理だよ。間に合わない!」

「くそっ!」

 おろおろする商人にアレンが声をかける。

「馬車は諦めましょう! 今からそちらにできるだけ近づくのでこっちに飛び移ってください。暴走状態で森に入るのは危険です!」

 商人はアレンの話を聞き、何度も頷く。アレンは周囲の状況を慎重に確認しながら荷馬車に近づいた。商人は震える手を最大限に伸ばしてアレンの手をしっかりとつかんだ。アレンは力いっぱい商人を引っ張り、無事に乗り移らせる。森の入口目前でアレンは方向転換をして森から離れた。すると商人がアレンの腕を引いて言う。

「お願いします。馬車を追ってください。あの荷物の中に娘のウエディングドレスがあるんです!」

 アレンが戸惑いながら森を見つめていると、クレイグが苛立ちながら商人に言う。

「諦めろ! 危ねえっつってんだろ!」

「そうだよ。ドレスより命だよ」

 ティムも言う。商人はアレンの腕をぎゅっとつかんで懇願する。

「娘に今まで何もしてやれなかったんです。あのドレスだけは……」

 アレンはティムたちの顔を見る。ティムたちは黙って首を横に振っている。商人は、アレンたちの顔を見渡して言う。

「そうですよね。あなたたちにこれ以上迷惑をかけられない。ありがとうございました」

 商人はそう言って馬から降りた。アレンは心配そうに尋ねる。

「ドレス取りに森へ向かうつもりですか?」

「ええ、どうしても諦められませんから」

 商人が答えると、クレイグが怒りをあらわにして言った。

「バカか! 娘の気持ちもちっとは考えろ! ドレスなんかより親父が生きて帰ってくる方がいいに決まってんだろ! それとも親父よりドレスの無事を喜ぶクソ女なのかよ!」

「クレイグ!」

 アレンが声を荒げる。ティムもクレイグを見て小声で言う。

「言い過ぎ」

 クレイグは不満そうに口をつぐんだ。アレンは商人に話しかける。

「一人で行くのはあまりに危険過ぎます。一緒に探しましょう」

 ティムとクレイグは驚き、商人の男は笑顔になり涙をにじませた。

「おい! おまえ正気か⁉ 森に罠があるかもって言ったのおまえだろ! 何考えてんだ!」

 クレイグが怒り、ティムも続けて言う。

「そうだよ。何があるかわかんないし、ブラッドは?」

「ブラッドも心配だけど、ブラッドにはケイがいる。でも彼は一人だ。このまま見捨てることなんかできる?」

 アレンがそう言うと、ティムたちはため息をつき、クレイグが不満そうにつぶやいた。

「これだからお人好しは……」

「仕方ないよ。見捨てるわけにはいかないってのも確かにって感じだし」

 ティムが言った。そして、3人は商人をつれて森へと入っていくのだった。
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