男がケイにゆっくり近づきながら話しかける。
「ほんとは怖いんだろ? ごめんなさいって言ってみろ。そしたら優しくしてやるぞ?」
ケイは鼻で笑って言う。
「あんたこそ怖くてそれ以上近づけないんだろ? 死にたいなら来いよ」
男は勢いよくケイに襲いかかる。しかしケイが男のすねを蹴り、男は痛みで顔をしかめる。その隙にケイは男を背後から押さえつけ、手錠の鎖で男の首を絞めつける。男は苦しさで顔を歪ませ、声を絞り出すように話す。
「や……めろ。わかった……俺が、悪――」
「もう遅い。私はね、あんたみたいな奴らが大嫌いなんだよ。さっさと死にな」
ケイは見下すように冷たい視線で言い捨て、男の首を強く絞め上げる。しばらくすると男はぐったりとし動かなくなった。ケイは男から鍵を取り、手錠を外した。そして男を足で隅に押し退けて牢を出る。ケイが床に落ちていた松明を拾おうとしたとき、頭目の男が部下を数人連れて近づいてきた。
「どこへ行く。中へ戻れ」
ケイは男たちをにらみながら後ずさりして牢に戻る。頭目は中で倒れている男に目をやる。
「暴れ馬は困ったもんだな。人質は人質らしく大人しくしてろ」
頭目はそう言って、ケイの頬を強く叩いた。その勢いでケイは床に倒れこむ。
アリオト砂漠。ブラッドとシビルが馬で駆けている。シビルが声をかける。
「何か策はあるの?」
「その場で考える」
「死んだらだめよ」
ブラッドは正面を見たまま無言で駆けている。
「やっぱり。死ぬ気ね?」
ブラッドは何も答えない。
「あーあ、アイリスが可哀想。アレンたちもきっと泣くでしょ――」
「うるさいな。黙って走れないのか」
「無言で走ってるだけってつまらないじゃない。盛り上げてあげようと思って」
「だとしたらセンスゼロだな」
「もうすぐね」
「死にたくなかったら今のうちに帰るんだな」
今度はシビルが黙って遠くを見つめ、少し間をおいて言う。
「死ぬときは一緒よ」
「誰だよ」
しばらく走ると大きな岩が見えてくる。ドラゴンストーンだ。そのそばに5人の男が立っている。
「あれか」
ブラッドは男たちの前で馬から降りる。賊の男が声をかける。
「ちゃんと逃げずに来たみたいだな」
ブラッドは周囲を軽く見渡して言う。
「ケイはどこだ。俺が来たら返すはずだろ」
「そんなこと言ったか? 最近、記憶力が悪くなってなあ」
男が笑みを浮かべながら言う。
「最近? どうせ元からバカだろ。バカ面5つも並べやがって」
「いい度胸だな。この人数を前にして」
別の賊の男が言う。
「いくら仲間と一緒でもあの距離じゃ何の役に立つんだ?」
ブラッドが男の視線を追って振り返ると、50メートル以上離れたところでシビルが馬に乗ったままじっと見つめている。ブラッドは呆れた表情を浮かべ、ため息をついてつぶやく。
「何が死ぬときは一緒だ」
シビルは笑顔で手を振っている。ブラッドは男たちの方へと視線を戻し、鋭い目つきで言う。
「おまえらごとき一人で十分だ」
薄ら笑いを浮かべていた賊の男たちの表情が険しく変わる。
「なめやがって……」
賊の男たちが腰の剣を抜き、ブラッドに斬りかかる。ブラッドは次々と襲いかかる男たちをかわしながら、一人ずつ斬っていく。シビルはその様子を静かに見守っている。5人の賊の男たちは血を流して倒れている。ブラッドは返り血を浴びているものの無傷だ。ブラッドは乱れる呼吸を整えて賊の男に近づき、のど元に剣を突きつけて言う。
「ケイはどこだ」
男はブラッドを見上げながら震えた声で言う。
「し、死んでも言うか」
「じゃあ死ね」
ブラッドが剣を振り上げる。
「あー! わかった! 言う!」
男が慌てて叫ぶ。ブラッドは動きを止め、じっと男を見つめる。
「ここから真っ直ぐ行って、しばらくしたら洞窟が見えるはずだ。洞窟の一番奥の牢屋にいるはずだ」
「ほんとだな?」
ブラッドは男を刺すようなまなざしで見つめる。
「ああ、移動したって話は聞いてねえ」
ブラッドは剣を鞘にしまう。そこにシビルが近づいてくる。
「居場所わかったの?」
「ああ、急ぐぞ」
「こいつは?」
「放っとけ」
シビルは男を見る。男は息を荒げ二人を見ている。ブラッドは男に構わず馬に乗る。
「シビル、行くぞ」
シビルは足元に落ちていた剣を拾い、男の胸に突き刺す。ブラッドは驚いてシビルを見る。シビルは冷たい視線を男に向けて言う。
「弱肉強食の世界が望みなんでしょ? 弱者が生きられると思わないことね」
「く、くそ……」
男は息絶えてその場に倒れる。
「おまえ……」
「何? 流儀は合わせてあげようかしらって思ってね」
シビルはそう言って馬にまたがる。
「じゃ、行きましょ」
シビルはまるで何もなかったように表情一つ変えなかった。ブラッドは男に視線を向けるが、何も言わず馬を走らせる。シビルはその後を追った。
「ほんとは怖いんだろ? ごめんなさいって言ってみろ。そしたら優しくしてやるぞ?」
ケイは鼻で笑って言う。
「あんたこそ怖くてそれ以上近づけないんだろ? 死にたいなら来いよ」
男は勢いよくケイに襲いかかる。しかしケイが男のすねを蹴り、男は痛みで顔をしかめる。その隙にケイは男を背後から押さえつけ、手錠の鎖で男の首を絞めつける。男は苦しさで顔を歪ませ、声を絞り出すように話す。
「や……めろ。わかった……俺が、悪――」
「もう遅い。私はね、あんたみたいな奴らが大嫌いなんだよ。さっさと死にな」
ケイは見下すように冷たい視線で言い捨て、男の首を強く絞め上げる。しばらくすると男はぐったりとし動かなくなった。ケイは男から鍵を取り、手錠を外した。そして男を足で隅に押し退けて牢を出る。ケイが床に落ちていた松明を拾おうとしたとき、頭目の男が部下を数人連れて近づいてきた。
「どこへ行く。中へ戻れ」
ケイは男たちをにらみながら後ずさりして牢に戻る。頭目は中で倒れている男に目をやる。
「暴れ馬は困ったもんだな。人質は人質らしく大人しくしてろ」
頭目はそう言って、ケイの頬を強く叩いた。その勢いでケイは床に倒れこむ。
アリオト砂漠。ブラッドとシビルが馬で駆けている。シビルが声をかける。
「何か策はあるの?」
「その場で考える」
「死んだらだめよ」
ブラッドは正面を見たまま無言で駆けている。
「やっぱり。死ぬ気ね?」
ブラッドは何も答えない。
「あーあ、アイリスが可哀想。アレンたちもきっと泣くでしょ――」
「うるさいな。黙って走れないのか」
「無言で走ってるだけってつまらないじゃない。盛り上げてあげようと思って」
「だとしたらセンスゼロだな」
「もうすぐね」
「死にたくなかったら今のうちに帰るんだな」
今度はシビルが黙って遠くを見つめ、少し間をおいて言う。
「死ぬときは一緒よ」
「誰だよ」
しばらく走ると大きな岩が見えてくる。ドラゴンストーンだ。そのそばに5人の男が立っている。
「あれか」
ブラッドは男たちの前で馬から降りる。賊の男が声をかける。
「ちゃんと逃げずに来たみたいだな」
ブラッドは周囲を軽く見渡して言う。
「ケイはどこだ。俺が来たら返すはずだろ」
「そんなこと言ったか? 最近、記憶力が悪くなってなあ」
男が笑みを浮かべながら言う。
「最近? どうせ元からバカだろ。バカ面5つも並べやがって」
「いい度胸だな。この人数を前にして」
別の賊の男が言う。
「いくら仲間と一緒でもあの距離じゃ何の役に立つんだ?」
ブラッドが男の視線を追って振り返ると、50メートル以上離れたところでシビルが馬に乗ったままじっと見つめている。ブラッドは呆れた表情を浮かべ、ため息をついてつぶやく。
「何が死ぬときは一緒だ」
シビルは笑顔で手を振っている。ブラッドは男たちの方へと視線を戻し、鋭い目つきで言う。
「おまえらごとき一人で十分だ」
薄ら笑いを浮かべていた賊の男たちの表情が険しく変わる。
「なめやがって……」
賊の男たちが腰の剣を抜き、ブラッドに斬りかかる。ブラッドは次々と襲いかかる男たちをかわしながら、一人ずつ斬っていく。シビルはその様子を静かに見守っている。5人の賊の男たちは血を流して倒れている。ブラッドは返り血を浴びているものの無傷だ。ブラッドは乱れる呼吸を整えて賊の男に近づき、のど元に剣を突きつけて言う。
「ケイはどこだ」
男はブラッドを見上げながら震えた声で言う。
「し、死んでも言うか」
「じゃあ死ね」
ブラッドが剣を振り上げる。
「あー! わかった! 言う!」
男が慌てて叫ぶ。ブラッドは動きを止め、じっと男を見つめる。
「ここから真っ直ぐ行って、しばらくしたら洞窟が見えるはずだ。洞窟の一番奥の牢屋にいるはずだ」
「ほんとだな?」
ブラッドは男を刺すようなまなざしで見つめる。
「ああ、移動したって話は聞いてねえ」
ブラッドは剣を鞘にしまう。そこにシビルが近づいてくる。
「居場所わかったの?」
「ああ、急ぐぞ」
「こいつは?」
「放っとけ」
シビルは男を見る。男は息を荒げ二人を見ている。ブラッドは男に構わず馬に乗る。
「シビル、行くぞ」
シビルは足元に落ちていた剣を拾い、男の胸に突き刺す。ブラッドは驚いてシビルを見る。シビルは冷たい視線を男に向けて言う。
「弱肉強食の世界が望みなんでしょ? 弱者が生きられると思わないことね」
「く、くそ……」
男は息絶えてその場に倒れる。
「おまえ……」
「何? 流儀は合わせてあげようかしらって思ってね」
シビルはそう言って馬にまたがる。
「じゃ、行きましょ」
シビルはまるで何もなかったように表情一つ変えなかった。ブラッドは男に視線を向けるが、何も言わず馬を走らせる。シビルはその後を追った。
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